飲食店の物件選び
2026/10/30
「いい物件が出たと不動産屋さんから連絡があったけれど、本当にここで大丈夫だろうか」「家賃が安い居抜き物件、決めてしまっていいのかな」。開業を考えている方が、よく口にする悩みです。
物件は、一度契約すると簡単にはやり直せません。しかも、内装工事が始まってから「この設備では営業許可が下りない」と分かると、時間もお金も大きく失ってしまいます。この記事では、飲食店の物件を選ぶときに、契約の前に確認しておきたいことを、順番に整理してお伝えします。
物件選びは「コンセプト」と「数字」から始める
物件を見に行く前に、まず次の2つを紙に書き出しておきましょう。
- どんなお客様に、どんな料理を、いくらで出すお店か(コンセプト)
- 毎月いくらまでなら家賃を払えるか(数字)
コンセプトが決まっていないと、「なんとなく良さそう」で物件を選んでしまいがちです。たとえば、会社員のランチを狙うなら昼の人通り、観光客を狙うなら駅や観光地からの動線、家族連れを狙うなら駐車場の有無が大切になります。お店の形によって「良い物件」の条件は変わるのです。
払える家賃は「逆算」で決めます。
家賃は、売上の見込みから逆算して考えます。手順は次のとおりです。
- 席数・回転数・客単価から、1か月の売上の見込みを出す
- 原価(食材費)と人件費の見込みを差し引く
- 水道光熱費や広告費など、その他の経費を差し引く
- 残った金額の中で、借入金の返済と手元に残したい利益を確保したうえで、家賃に回せる金額を決める
計算の考え方を分かりやすくするために、仮の数字で表にしてみます(実際の数字ではありません)。
| 項目 | 仮の金額(月) |
|---|---|
| 売上の見込み | 200万円 |
| 原価・人件費 | 120万円 |
| その他の経費 | 30万円 |
| 返済と残したい利益 | 30万円 |
| 家賃に回せる上限 | 20万円 |
大切なのは、「この物件の家賃はいくらか」ではなく、「自分のお店ならいくらまで払えるか」を先に決めておくことです。売上の見込みは、少し控えめに見積もっておくと安心です。
現地は時間と曜日を変えて何度も見る
気になる物件が見つかったら、営業したい時間帯に、平日と休日の両方で現地に立ってみましょう。
- 前を通る人の数と、その人たちの年代や服装
- 歩いている人か、車で通り過ぎる人か
- 車の場合、駐車場に入りやすいか
- 近くに同じような業態のお店があるか、そのお店の混み具合
- 夜の明るさや、看板が遠くから見えるか
1回だけの見学では、たまたま人が多い日だったということもあります。できれば3回以上、時間を変えて足を運ぶことをおすすめします。
設備は「厨房」と「インフラ」を確認する
飲食店は、一般の店舗よりも設備への負担が大きい業種です。契約前に、次の点を確認しておきましょう。
- ガス:使いたい火力の機器が使えるか、容量は足りるか
- 電気:電気の容量(契約できる量)は足りるか
- 給排水:水道の太さや排水の流れ、グリストラップ(油を受ける設備)の有無
- 換気・排気:排気ダクトをどこに出せるか、近所に煙やにおいが流れないか
- トイレ:お客様用とスタッフ用の動線
これらは、あとから工事をすると費用が大きくなりやすい部分です。設備業者や内装業者に、契約前に一緒に見てもらうと安心です。
契約前に保健所と消防署へ相談する
ここが一番大切なポイントです。
飲食店を営業するには、保健所の営業許可が必要です。島根県のホームページでは、新しく営業する場合や施設を改築する場合は、工事の前に図面を持って保健所へ相談するよう案内されています。施設基準に合っていない場合は、工事を始めていても許可が出ないことがあるとも書かれています。業種ごとの施設基準は条例で定められていますので、お店の所在地を管轄する保健所で、工事や契約の前に確認してください。
また、松江市では、店舗の出店などで建物を使い始めるときは、使用を開始する日の7日前までに「防火対象物使用開始届出書」を出すことになっています。用途の変更や間仕切りの変更をする場合は、消防法令の適用が変わることがあるため、まず消防署へ事前に相談するよう案内されています。ほかの市町村で開業する場合も、地元の消防署に確認しましょう。
建物の用途や法律に関わることは、お店の場所や建物によって変わります。保健所・消防署のほか、必要に応じて建築士や行政書士などの専門家にも確認してください。
居抜き物件は「残っている物」の中身を確かめる
前のお店の設備が残っている居抜き物件は、初期費用を抑えやすい一方で、確認しておきたいことがあります。
- 残っている厨房機器は、きちんと動くか、古すぎないか
- 機器や内装が誰のものか(造作の譲渡に費用がかかるか、リース品が混じっていないか)
- 前のお店の業態と、自分のお店の業態が合っているか
- 前のお店がなぜ閉店したのか、分かる範囲で聞いてみる
「安く始められる」ことだけで決めず、自分のメニューを作るのに必要な設備がそろっているかを基準に判断しましょう。
契約書は「お金」と「出るとき」の条項を読む
最後に、契約書の確認です。特に次の点は、サインの前にしっかり読みましょう。
- 敷金など、契約時に預けるお金の金額と、退去時にどれだけ戻るか
- 契約期間と更新のしかた、更新料の有無
- 退去するときに、元の状態に戻す義務(原状回復)の範囲
- 内装工事や看板の設置に、大家さんの許可がいるか
- 家賃が発生する日(工事期間中の家賃の扱い)
分からない言葉や不安な条項があれば、そのままにせず、不動産会社に質問したり、弁護士など専門家に相談したりしてください。
明日からできる3つのこと
物件探しを始める前に、次の3つに取り組んでみましょう。
- お店のコンセプト(お客様・料理・価格)を1枚の紙にまとめる
- 売上の見込みから、払える家賃の上限を計算する
- この記事の確認項目を、見学用のチェックリストとして印刷しておく
まとめ
飲食店の物件選びは、「良さそうな物件を探す」ことよりも、「自分のお店に合う物件かを確かめる」ことが大切です。コンセプトと数字を先に決め、現地を何度も見て、設備を確認し、契約前に保健所と消防署へ相談する。この順番を守ることで、開業後の「こんなはずではなかった」を減らすことができます。
物件の候補を前に迷ったときは、売上の見込みや家賃の上限を一緒に整理することもできます。お気軽にご相談ください。
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