飲食店のHACCPの基本
2026/10/05
「HACCP(ハサップ)って、うちみたいな小さな店も本当にやらないといけないの?」「記録をつけろと言われても、忙しくて手が回らない」――飲食店のオーナーさんから、こうしたお悩みをよくうかがいます。
言葉が難しそうに聞こえるため、つい後回しになりがちなHACCPですが、小さな飲食店向けには、ふだんの仕事に近い形で取り組めるように手引書が用意されています。この記事では、厚生労働省や島根県などの公的な情報をもとに、小さなお店がHACCPに沿った衛生管理を始めるための基本と、明日からできる手順をやさしくまとめます。
なお、この記事は考え方の整理を目的としたものです。お店ごとの具体的な対応は、お店の所在地を管轄する保健所に確認してください。
HACCPとは?いつから、だれが対象?
HACCPは、食中毒などの原因になる危険を前もって見つけ、調理の大事なポイントを管理して事故を防ぐための衛生管理の方法です。
厚生労働省によると、**令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者に「HACCPに沿った衛生管理」の実施が求められています**。飲食店もこの対象に含まれます。
島根県の案内では、事業の規模や形態に応じて、次の2つのどちらかに取り組むことになると説明されています。
| 区分 | 主な対象 | 取り組みの内容 |
| --- | --- | --- |
| HACCPに基づく衛生管理 | 大規模な事業者など | コーデックスのHACCP7原則に基づく衛生管理 |
| HACCPの考え方を取り入れた衛生管理 | 小規模な事業者など | 業界団体が作成した手引書を参考にした衛生管理 |
小さな飲食店の多くは、後者の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に当たると考えられます。ただし、どちらに当たるかはお店の状況によりますので、保健所に確認しておくと安心です。
小さなお店がやることは「計画・実行・記録・振り返り」
厚生労働省は、HACCPに沿った衛生管理として、主に次のことを示しています。
- 衛生管理計画を作成し、従業員に周知する
- 必要に応じて、清掃・消毒などの手順書を作る
- 衛生管理の実施状況を記録し、保存する
- 定期的に計画を確認し、見直す
島根県の案内でも、「①作成 → ②実施 → ③記録確認 → ④振り返り」という流れで進めるよう説明されています。特別な機械をそろえるというより、**「決めたことを、決めたとおりにやり、記録して、ときどき見直す」**という仕組みづくりだと考えると分かりやすいでしょう。
手引書を手に入れるところから始める
小規模な一般飲食店向けには、公益社団法人日本食品衛生協会が作成した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」があり、厚生労働省のホームページで公開されています。計画や記録の様式もついているので、まずはこの手引書を印刷し、目を通すところから始めてみてください。
手引書では、日ごろの衛生管理のポイントとして、次のような項目が挙げられています。
1. 原材料の受け入れの確認(外観・におい・包装の状態・期限や保存方法の表示)
2. 冷蔵庫・冷凍庫の温度の確認(冷蔵は10℃以下、冷凍はマイナス15℃以下が目安として示されています)
3. 交差汚染・二次汚染の防止(器具を用途別に使い分け、使うたびに洗浄・消毒)
4. 器具等の洗浄・消毒・殺菌(まな板・包丁・ボウルなど)
5. トイレの洗浄・消毒(便座・水洗レバー・手すり・ドアノブなど)
6. 従業員の健康管理(おう吐や下痢などの症状がある人は調理に従事させない)
7. 衛生的な手洗い(トイレの後、調理場に入る前、盛り付けの前など)
メニューを3つのグループに分けてみる
手引書のもう一つの柱が、メニューを調理の仕方で分けて、それぞれの「チェック方法」を決めることです。
| グループ | 内容 | 例 |
| --- | --- | --- |
| 第1グループ | 加熱しないもの(冷たいまま提供) | 刺身、冷奴など |
| 第2グループ | 加熱して、熱いまま提供するもの | ステーキ、焼き魚、唐揚げなど |
| 第3グループ | 加熱した後に冷やすもの | カレー、スープ、ポテトサラダなど |
たとえば第2グループなら「中心まで火が通っているかを、焼き上がりの色や肉汁の状態で確認する」、第3グループなら「冷ますときに室温で長く放置しない」といったように、**お店の調理の仕方に合わせて確認方法を言葉にしておく**ことがポイントです。確認方法の決め方に迷ったら、手引書の例を参考にしながら保健所に相談してください。
明日からできる5つの手順
忙しいお店でも始めやすいように、手順を5つに分けてみます。
1. **手引書を印刷し、衛生管理計画の様式を用意する**(1日目)
2. **自店のメニューを書き出し、第1〜第3グループに分ける**(1週目)。全メニューを一度に書けなくても、よく出る料理から始めれば十分です
3. **冷蔵庫・冷凍庫に温度計を置き、確認する時間を決める**(例:開店前と閉店後)
4. **記録表を厨房の見やすい場所に貼り、チェックする人を決める**。手引書では、毎日の項目に「良・否」をつけ、問題があればその内容を書く形が示されています
5. **月に1回、記録を見返す日を決める**。手引書では、毎月の振り返りで問題が多かったところを確認し、改善を考えることが示されています
記録については、手引書で「1年間程度は保管」と示されています。
紙のファイルに月ごとにとじておくと、保健所の立ち入りのときにも見せやすくなります。
続けるための工夫と、経営とのつながり
衛生管理は、続けてこそ意味があります。続けるためには、次のような工夫が役立ちます。
- 記録は「チェックを入れるだけ」で済む形にし、書く量を減らす
- 担当者を1人に固定せず、休みの日の代わりの人も決めておく
- 新しいスタッフが入ったら、最初の週に手洗いと記録のつけ方を一緒に確認する
また、衛生管理の記録を見返すと、冷蔵庫の詰め込みすぎや、仕込み量の多すぎに気づくきっかけにもなります。仕込み量の見直しは、食品ロスや原価の見直しにもつながります。衛生管理を「やらされること」ではなく、**お店の仕事の流れを整える機会**と考えると、取り組みやすくなるのではないでしょうか。
なお、アレルギー表示や、具体的な加熱温度・時間、施設の基準などは、お店の状況によって判断が変わります。自己判断はせず、保健所に確認してください。
まとめ
- 令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者に「HACCPに沿った衛生管理」が求められています
- 小さな飲食店は、日本食品衛生協会の手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)を参考にすると始めやすくなります
- やることは「計画 → 実行 → 記録 → 振り返り」。メニューを3つのグループに分け、チェック方法を決めるのが第一歩です
- 分からないことや、お店ごとの判断が必要なことは、所在地を管轄する保健所に相談しましょう
衛生管理の仕組みづくりは、仕込みや人の動き方など、お店全体の運営を見直すきっかけにもなります。
「何から手をつければいいか分からない」という方は、まずはお気軽にご相談ください。
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